東北

白昼夢のような街、盛岡に行く 

足跡。現在20歳の現役大学生。大学に入り2年間で、国内25県、海外3か国に行った無類の旅好き。観光地を巡るより、街の雰囲気を感じながら美味しいご飯を食べることを目的に旅行をしている。

噛めるひかり啜れるひかり飲めるひかり 祈りのように盛岡冷麺 

これは盛岡出身の歌人、くどうれいんさんの短歌だ。私はこの短歌に魅せられて一人で岩手に向かった。大学一年生の十月だった。 

花巻のナポリカツ 

1泊2日の岩手旅の初日、私は盛岡より南に位置する花巻に降り立った。目当てにしていたのはマルカンビルのナポリカツ。

ビルに入り、エレベーターで六階に上り30分ほど並んでレジに着き、ナポリカツの食券を貰い窓側の席に腰を掛けた。店内は広く、人々の熱気を漂わせていた。私は食券をメイド服を着た女性に手渡し、窓の外をぼんやりと見つめていた。大きな太陽は白く濁った光を生み出し、柔らかな空気が立ち込めている。先ほどとは別の女性がほんのり湯気を漂わせたナポリカツを運んできた。

30㎝ほどの楕円皿の左側にレタスやニンジンのサラダ、右側の濃いオレンジ色のナポリタンに重なるように一枚のカツが載せてある。ナポリタンはトマトソースの味が強く、いわゆる喫茶店の味がした。カツは薄くはあるが柔らかく、サクサクと衣が音を立てていた。

営業時間:平日  11:00~15:30(15:00 L.O)

 住所      :岩手県花巻市上町6-2

      土日祝 11:00~18:30(18:00 L.O)

定休日:水曜日

アクセス:JR花巻駅から徒歩15分

閑静な美術館 

ナポリカツでお腹を満たした後に花巻駅に戻り、電車に揺られて盛岡に着いた。ホテルに荷物を置き、私は早速街散策を始め、最初に岩手県立美術館に向かった。高原のような芝生の奥にどっしりとした建物が私を迎えた。美術館の中の天井は見上げるほど高く、薄いネイビーの床はチリ一つ無くて清潔だった。私は常設展示をさらりと見てミュージアムショップでピカソの「友情の花」が描かれたコースターを買って、美術館を後にした。 

住所:岩手県盛岡市本宮字松幅12-3

開館時間:9:30〜18:00(入館は17:30まで)

定休日:月曜日

観覧料:一般460円、学生350円

(特別展示は展示ごとに変更)

アクセス:盛岡駅西口から徒歩20分

     または、盛岡駅東口より、「県立美術館前」で下車

宝石が載ったティーパンチ 

盛岡駅から北上川を渡って大通りを二十分ほど歩く。昼前ににわか雨でも降ったのだろうか。空は透き通るように青く澄んでいて、舗石は湿っていた。周辺の木々から落ちた薄黄色の紅葉が雨でべったりと地面に張り付いていた。私は盛岡出身の友人に勧められた喫茶店を目指した。盛岡城跡公園の道路沿いを歩き、二本目の小道を曲がると「ティーハウスリーベ」と書かれた四角柱の黄色い看板があった。

ドアを開けるとすぐ左に階段があり、どうやら二階に主とした席があるらしい。店内は日の光を通さず、時の流れを感じることは難しそうだった。階段を上り、壁に面した席についた。四十代くらいの女性二人が紅茶を飲みながら他愛もない話をしているだけで他には誰もいなかった。友人のおすすめメニューを頼むと40分ほど時間がかかるらしく、その間は本を読んで待っていた。本の中では、主人公の回想シーンが始まっていた。階段を上る足音で本から顔をあげると待ち望んだティーソーダが運ばれてきた。

脚の上がぷっくりと膨らんだブランデーグラスにたっぷり入った氷とオレンジ色のアイスティーには苺とキウイが浮かんでいた。グラスの上にはびっしりと丁寧にフルーツカットで装飾された果物が宝石箱の宝石のように艶やかな光を放っていた。私はマスカット、パイン、林檎、ドラゴンフルーツを口の中で果汁の甘味を感じながら惜しむように味わった。氷が溶けかけ、味が薄くなったアイスティーを飲み干した。私は一息ついて会計を済ませ外に出た。夕暮れが訪れていた。 

住所:岩手県盛岡市内丸5-3

営業時間:平日 7:30~19:00

     土曜 9:00~23:00

     日曜 11:00~19:00

定休日:不定休

アクセス:盛岡駅より「県庁市役所前」で下車、徒歩約3分

夕方のチータンタン 

夜ごはんはじゃじゃ麺と決めていた。じゃじゃ麺は韓国のジャージャー麺とは異なり、平打ち麺に肉みそやきゅうりを載せて食べる盛岡のソウルフードだ。じゃじゃ麺のお店の老舗である白龍に午後5時に着いた。混雑を避けて早く来た甲斐もあり、大学生風の男性と2人きりだった。お店はこぢんまりとしていた。私は小と中でサイズを迷った後、中を頼んだ。

少し待って目の前に置かれたじゃじゃ麺はもっちりとした太麺の上に細切りきゅうり、更にその上にピリ辛の肉味噌が載っている。更に添えられたおろし生姜や卓上の酢、ニンニクを自分好みに調節しながらかき混ぜて口に頬張る。卓上のおいしい食べ方と書かれた紙を見ながら私は麺を一口残し、卵を割り入れかき混ぜた。そして、店員さんにマニュアル通り「チータンタンお願いします」と声をかけ、ゆで汁を注いでもらった。生卵はかき玉に変化し湯気が漂っている。再び卓上の薬味で味を調節しながらスープを飲み干した。

住所:岩手県盛岡市内丸5-15

営業時間:平日・土 9:00~21:00(20:40L.O)

        日曜  11:30~18:45

定休日 :なし

アクセス:盛岡駅より「県庁市役所前」で下車、徒歩約2分

川沿いの喫茶店の林檎タルト 

本の続きが読みたくて昼の探索時に見つけた川沿いの喫茶店「ふかくさ」に入った。時刻は夜八時を過ぎていた。その喫茶店は蔦と葉で覆われていた。店内は小さくテーブル席がいくつかあり、私はまたもや窓辺の椅子に腰かけた。店内には私ひとりであった。外は雨が降っていて昼間は穏やかだった水流も勢いをなし、川は夜の闇と混ざり合って溶けだしていて、私は昼間に見た川の色を思い出そうと試みた。しかし、濁っていたのか澄んでいたのか、淡い水色なのか濃い鉛色なのかさえ思い出すことが出来なかった。頭をぐったりと垂らした花の模様のランプは暖かなオレンジ色でツルっとしたテーブルを照らした。

林檎タルトとアイスティーが運ばれてきた。ぎっしり載った冷たくて甘い林檎をアイスティーで流し込む。私は吉本ばななのキッチンの一文を思い出した。「でも食べ物も光を出すだろう」林檎タルトは確かに光を放っていて、その光はお腹も心も満たした。

住所    :岩手県盛岡市紺屋町1-2

営業時間: 平日 12:00 - 15:00 17:00 - 23:00

        土 12:00 - 22:00

        日 12:00 - 17:00

 定休日  :  不定休

アクセス:盛岡駅より「県庁市役所前」で下車、徒歩約5分

祈るように盛岡冷麺 

最終日、私は夢にまでみた盛岡冷麺と対面した。お店は王道の「盛楼閣(せいろうかく)」に決めた。噛める光啜れる光飲める光…私は数回この短歌を心の中で反芻してはやがてやってくる冷麺の形状、色彩、食感を丁寧にすみずみまで想像した。待つこと15分、冷麺が届いた。白色のシンプルなどんぶりの中央に淡い黄色の太麺が高さを出しながら行儀よく構えていて、麺の上にはゆで卵が載せられている。側面にはきゅうり、キムチ、牛チャーシューが添えられていた。スープをすくうと窓の外の光を反射してれんげの上で光を放っている。牛のうまみとキムチのピリッとした辛さを舌いっぱいで味わった。麺はもっちりとした弾力があり、食べ応えがあった。

住所:岩手県盛岡市盛岡駅前通15-5 ワールドインGENプラザ 2F 

営業時間:11:00 - 00:00

定休日:なし

アクセス:盛岡駅から徒歩3分

 盛岡と聞くたびに電車で聴いていた音楽と本を思い出す。そして、盛岡は白昼夢のような街だったことを思い出す。街はあまりに眩しく白い光で溢れてかえり、現実だと忘れてしまいそうだった。一人旅はどうしても美化されてしまう。そうだとしても、初めて一人で行った盛岡の記憶は私の中で輝き続けるだろう。 

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